白い扉/小川 葉
ってしまったようだ
知らない文字で
埋め尽くされていく
白い扉はもはや
白い扉ではなかった
牛の足跡の文字も
もはや文字ではなく
たんなる牛の足跡
おじさんもまた
牛飼い以外の何者でもない
わたしは扉を
静かにとじた
+
それから何も聞こえない
何も聞こえない
時がいつまでも続いて
ついに色のない
白いその扉を開いた
生きているようだった
生まれたばかりのようだった
そんな気がしていた
この時がやって来ることを
知っていたわけではないのに
あらかじめ
知っていたかのように
はじまりながら過ぎていく
+
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