白い扉/小川 葉
時限装置の命
命とはやがて生まれ
やがて消えていくような
あなたに会えてよかった
とでもいうような
昼下がりの電車の中
空席ばかりが目立つ向かい側に
あなたはいて
わたしもいた
あの川の土手の向こうにも
とてもよく似た土手があって
牛飼いのおじさんと
おなじくらいの歳の牛を
隔てて川は流れている
+
はじめに川が流れていた
白い扉が
土手にあった
それよりもさきに
わたしがあった
そうしてすべてがある
ここには
すべてがある
今だけがぜんぶ
残らずにここにとどまり
そうしてすぎていく
+
わたしたちは
それを世界と呼ぶ
呼ぶにはとても大きすぎて
小さすぎる
あなたの胸にある宇宙の音が
耳をくすぐる
白い扉がひとりでに開く
今がはじまる
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