割引券/小川 葉
をしている
僕は取り乱さずに
記憶の糸をほどいていく
「おつりちょうだい」と
女の人はまるで妻のように言う
「どうしておつりがこんなに多いの?」
と僕に問いつめるので
困ってしまって
「手を洗ってくる」と
その場を離れてごまかした
ふたたび席にもどると
女の人と子供はもういなかった
二〇〇三年
その日僕には
まだ妻も子供もなかった
三人分の海老フライバーガーを
割引券で注文して
途方に暮れてしまっていた
ひとりの男だった
割引券を使わなければならないことや
手を洗いにいくふりをして
ごまかしたりしなければならない
日々がやがて来ることなんて
僕
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