割引券/小川 葉
 

僕はまだ知らなくて良かった

家に帰ると僕は
「おみやげだよ」と言って
海老フライバーガーを妻と息子にあげた
二人とも喜んでいたけれど
「お金どうしたの?」と
妻が心配そうに尋ねるので
「割引券使ったんだ」とこたえると
なんとなく納得したような顔をしている
海老が足りないと息子が不満そうな顔をしてるけど
僕は手を洗いに行くふりをしてごまかした
手を洗って戻ると
妻と息子はいなくならずにそこにいた

きっと君も誰かと結婚して
おそらく子供と一緒に
僕が君にあげた割引券のようなものを
使ってしまった時のことを
思い出しているのかもしれない
たった今
君に別れを告げるための
手紙を書き終えて
ポストに投函しながら
これから訪れる
未来を受け入れることを
静かに誓った
 
 
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