春と聞くだけで泣きそうになる今の私は/木屋 亞万
満開になってすぐ散ってしまう花びら達が
向かい風をくすぐったくして
名ばかりの春の風の寒さや
世間の冷たさなんてものを
否定も肯定もせずに
ただ風に舞う花弁によって覆い隠していく
それはしばらくの間
桜並木を歩き続けるものだけに与えられる幸福で
芯の通ったやさしい桜木たちの命がけの励ましだった
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紅葉が赤ん坊の手だとするなら
桜の若葉は赤ん坊の足かなと思う
空に突き出されたいくつもの足に
はみ出していく勇気をもらって
裸足で走る石畳、
ぬくい陽射しと風のつめたさ
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春のセーターほど美しいものはないと
桜咲く神社を歩きながら、あなたは言
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