虹の走り/蘆琴
ぼうっとその様を見たが、すぐ追い討ちをかけるように片足を高く上げた。老人は驚いて目を見開いた。そして通りの泥水に倒れて、ツァラの外套に跳ねていく水飛沫を追った。「いや、そう怒ることはないぞ、少しくらい待ったっていいだろうが。俺なんかは親父が死んでから三十年、こうやって財産を切り崩しながら死ぬのを待ってるんだ、お前みたいな若い奴にちょっと睨まれたくらいで逝ってたまるか。だがな、ほら、真っ青になってるはずだ、きっと俺の顔は真っ白だ、どっちでも構わん! 何なら黄色だ、おう、そりゃ正常か」
ツァラに生じた怒りは顰めた眉の合間から抜けてしまい、蒸発していた。詰まらない老人の戯言に付き合うくらいだった
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