中学受験の会場にて  【小説】/北村 守通
 
した。そして私の手にはラインを通して歓喜が伝わってくるのであった。
 エメラルドグリーンの濃淡の変化しかなかった水中に、突如白色がうねり、太陽光を反射した。それは私に合った魚であった。私が住んでいる世界よりも遥かに過酷で孤独な世界の中で逞しく育まれてきた白色が、私の手に委ねられたことを知る一瞬は常に釣りの楽しさを忘れさせるのに充分な哀しさがあったが、彼らあるいは彼女らが再び抵抗を試みるのを確かめると一瞬の内にそれは崩壊するのが常だった。
 時として、ネットに収めた選定品に水という圧力からの解放と、少しばかり呼吸という行為の不自然さを味わってもらうだけで、もとの世界に戻すときもあったが、ある
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