おといれ/小川 葉
ので
誰もいないおトイレで
おしっこをした
誰もいないおトイレは
誰もいないおトイレのにおいがした
ひとりで手を洗ってると
学校には誰ひとり
いなくなってしまったような
不安がふとわいてきた
おトイレのにおいがまるで
そこに人がいたことを証明するためだけに
あるような気がしていた
ある教室からもれてくる
ある女の子の
いい声の
朗読はもう聞こえなかった
かわりにその教室から先生の
さきほどの朗読の内容にかんする質問が
聞こえていた
猫がクルマに轢かれたのはなぜか
男が一人暮らしなのはなぜか
男はなぜ猫がいちまいの紙みたいになるまで
ほうっ
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