おといれ/小川 葉
うっておいたのか
紙みたいな猫と
二人だけで暮らしていたということは
どういうことなのか
わたしはわたしの教室にもどった
先生が
ずいぶん遅かったじゃないか
とわたしに言うけれど
わたしがもどった教室は
教室などではなかった
それは冬だったのか
夏だったのか
さだかではないけれども
とにかく寒く
暑かったかもしれない
わたしの帰るべき場所が
わたしのあたらしい居場所になっていた
先生だと思っていたひとは
わたしの上司だった
教室に似たその場所で
わたしは働かなければならなかった
女の子のいい声の
朗読が時々聞こえてくることもあったけど
それはもう
教室からではなかった
だれもが紙みたいな猫と
二人だけで暮らした男について
考えようとはしなかった
棒読みの
あの女の子の朗読みたいに
わたしは読まれることしかできなくて
生きていることが
とても懐かしかった
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