地下街のアラバマで/k.ジロウ
 
僕が見たのはほんの一部さ、あいつはちょっと気が狂っているんだ、あそこに座っている天使のことさ、昨日だって地下鉄であいつを見かけた、陽気なポルカを歌いながら列車を渡り歩く。
いつだったか僕が見かけてしまったのはあいつが、人を突き飛ばすところさ、人混みに紛れて、新聞を広げて列車を待つ中年の紳士を・・・、あいつの腕はひどく細いのに紳士は簡単にホームから転げ落ちた、近くにいた人々は、中年の紳士が突然ホームから飛び降りたと証言した、だけど僕は見たんだ、あいつの腕が紳士の背中を押し出すところを、あの痩せこけた頬が見えるかい?
僕はその場からすぐに立ち去った、あいつと目があったらきっと僕に話しかけ
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