地下街のアラバマで/k.ジロウ
かけてくるに違いないから、僕はその場から立ち去った、あいつの背中の羽は随分とすり切れていて鳩みたいだ、僕はそれを見たくないと思う、あいつの目はきっとただれた善意で出来ている、あいつのしわがれた不快な声はそれにふさわしい行為の結果だと思う、僕は風呂場で歌をうたってみる、あの陽気なポルカを、僕は鏡に向かってあいつの真似をする、真似ても似ても似つかないことを期待する、恋人には見られたくない仕種さ。
あいつはちょっと気が狂っているんだこんな風に、人々の心の仕掛けをいじくりまわす、ある男と女が出会って激しい恋をした、その男には妻と子供がいて彼らは幸福だった、そう幸福だった、あいつはそんな場面に現れる、
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)