雪のひとひら/小川 葉
 
るのだ。そうしてある日、約束はやぶられる。それが早いか遅いか、その二つに一つの違いがあるだけなのだ。「東京とは、ずいぶん遠いね。」「ここで会えてよかったわよね。どうして会ってしまったんだろうね。」芙美子ちゃんはもう泣いてなかった。女とはやはり、このようなとき男よりはるかに強いのだ。「東京で、芙美子ちゃんと、芙美子ちゃんの子供と三人で、会ったなら、不思議な感じだろうね。」ふきだして、苦笑していた、こんな彼女の表情さえも、もう見ることはできないのだ。

 そう言えば、けっきょく「雪のひとひら」を、その休日にカフェで読むという目的は、はたせなかった。けれど、その「雪のひとひら」を、なんとなく、彼女に
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