暗号/土田
 
いさつがきちんと出来ないと書かれ
やむをえず殺さざるを得ない
虫の皆さんの死骸に軽い会釈をし始めたのはそれからだった

三月九日

雨上がりの四ツ谷駅前で
うすく油の膜をはった濁りきった水たまりを見ていた
しゃがみこんでいた数十メートル先では
もっこり倶楽部というストリートミュージシャンが
いままさに路上ライブを敢行しようとしていた
大きなダンボールの板にでかでかと
グループ名とライブ音源三百円という文字が
派手なマジックで書かれていた
ふたり組みの青年たちの髪型はふたりとも鳥の巣だった
始まったふたりの折り重なるハーモニーに
だれも足を止めるものはいなかったが

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