暗号/土田
ず
誰かと目が合った時点で即ゲームオーバーだった
さしずめ今日の渋谷には
恋を恋する馬鹿臭く青臭い男と
それを指差しながら爆笑したり
ひそひそと白い目で気味悪がる
恋に恋するやつらばかりで
その構図だけが唯一このゲームの魅力だった
五月十三日
成増八時六分発の東武東上線準急池袋行きに揺られ
中途半端な満員電車の中途半端な冷房のなか
涙のような汗で塩分を自給自足し
うしろのOL風ののっぺらぼうの背中に
のしかかりながら千切り絵に勤しんでいた
しこしこと明るい未来や切なる願いをこまかく千切っては
新聞広告の裏がわにべたべたと貼りつけていった
一瞬の風景を切り取れ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)