クロスレット・シルバー  /いすず
 
っとゆれた。羽鳥が、おじいの垂れた腕を胸に組ませていた。
「羽鳥」
千尋が抱き締めた。羽鳥はあらがわなかった。千尋の眼からなみだがこぼれた。だれかに一緒にいてほしかった。父を見送ったときの悲しみが、こみ上げた。今は、こうして羽鳥のぬくもりのなかで、自分を埋めていたかった。我を忘れて、しゃくりあげた。羽鳥のゆびが、背中をなでていた。
千尋はすすり上げて羽鳥を見た。羽鳥は、わずかに微笑んでいた。天使のように、神々しい、そして、穢れのない笑みだった。

愛すということはつよいことじゃな。誰よりも、つよいことじゃな。

「あなたが、教えて呉れたの」
クルスのひもをゆびにはさみながら、眼を細
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