クロスレット・シルバー /いすず
を細めて、羽鳥はゆっくりいった。
「なにも、こわくなかった。ひとりじゃなかった。誰も、誰も、そんなふうに一緒にいてくれなかった。あたたかかった。さみしくなかった。つよくなれた。ひとりでは、できないことだった」
「僕も今ひとりじゃいられないよ」
羽鳥の胸にもう一度千尋は顔を埋めた。やわらかな匂いがした。羽鳥が、ささやくように告げた。
「たいせつなもの、うしなったの、おなじだったの。なくした思いを抱えて、どうしようもなくて。そんなとき、あなたがあらわれた。ジョゼフィンは、お兄ちゃんのペットだったの。お兄ちゃん、もう、いないの。あの、おじいさんのように、もう、帰ってこないの。だから、心が毀れてし
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