三十九歳/小川 葉
読んだ
わかるのだ
これほど太宰がわかったことはない
いい歳をした男が
いい歳なりに少し書きなれていて
洗練されたような文体が
見事に泣かせてくれるけれども
その背景にある
かなしみと絶望をひたかくしながら
書いていることがわかる
だから泣けるのだ
それがわかる歳に
僕はなってしまっていたのだ
そんな自分に置かれた事実のほうが
僕はかなしかった
三十九歳は
やけに人恋しくなる
そんな年頃だと思った
妻も息子もいるのに
気軽に自分をたすけてくれる
やさしい人たちが
こんなにもいるのに
それなのにただひたすら
人が恋しいのだ
誰かと一緒に
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