「 潜入創作官。P. 」/PULL.
潜入創作官はこの瞬間最も脆くなりその自我が危うくなる、なりきっただけのつもりが嘘が染み付き抜けなくなり、そのままうそばなしの仲間になってしまった創作官も少なくないのだ。
うそばなしの潜伏期間は定かではない。朝を待たず一夜で巣を出てゆくうそばなしもいれば、何年も何十年もまるで夫婦のように居着くうそばなしもいる、けれどうそばなしの別れは突然だ、夕暮れ時、台所で紅茶のための湯を沸かしている間に、何も言わず何も盗らず、ただそこから消えている、あるのはうそばなしが買ってきたお揃いの縁の欠けたティーカップと、ついさっきまでうそばなしが座っていた座布団に残る嘘のぬくみ、それだけだ。
うそばなしの
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