熱と遺産の日/水町綜助
 
黒いコートを着てそれに乗って
 裾がばたばたと風にあおられる音が恥ずかしくて
 手で押さえるけれどそれでは走りつづけられないから
 その音は鳴り止まないよ
 そういえばいつかきみは言っていた
 僕たちは空気の中を泳いでいるだけで魚と変わらないと
 それはそうだろうと思うけれどどうしてそう思うの
 空気は固いと思うから
 という一言を呟いたのを今でも憶えている
 真横から見ていた
 音よりも口の動きを
 ゆっくりと開いて閉じていくそんな
 光として憶えた


     *** 


 熱がひいた朝に
 午前六時
 目を覚ました
 冬の始まり
 東の空が屋根
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