熱と遺産の日/水町綜助
 
から出てきた男を照らすと
 はっとしたようにうつむいていた顔を上げて
 そいつの目を見る
 そいつの目はもちろんきみの顔の真横を通り過ぎて
 路地の出口を見ている
 きみが入ってきたところだ
 すれ違ってきみは路地のもう一つの出口を出る
 出た先はM通りだ
 きみが毎日のように
 無言で通り過ぎている道だ
 これじゃあまるで
 青いバケツの中をくるくる泳いでるみたいだ
 僕たちが金魚だったら幸いだけれど
 繁華街のポリバケツだったら悲惨だね
 だからそんな丘を空想する
 ありもしないその場所を白昼走り回って探す
 そのための道具を手に入れて
 とんと似合わない黒い
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