彼女はそうは思わない/ブライアン
、窓を閉める。カーテンも閉めた。母親を追う子供の焦点は、定まることはなかった。忙しく、あちらこちらへと移動していた。彼女は、薄暗い台所へ向かう。
忘れていく。風化してしまう。過去へ連れ戻される記憶は、もう記憶ですらないのだろう。彼女が流した涙の意味も、今では理解することなど出来ない。彼女は台所から戻ってくる。二つの湯飲み茶碗をもっていた。冷たいお茶が入れられている。子供は、母親の足音に耳を澄ましていたのだろうか。定まらない焦点が突然止まる。すべてを忘れるわけにはいかない、と彼女は笑った。私はそうは思わない、と。荒廃した記憶を再び積み上げるようにして、差し出された湯のみ茶碗を手に取る。忘れた振り
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