彼女はそうは思わない/ブライアン
 
振りをしていたのだろうか。そうやって、ここへやってきたのだろうか。春はまだやってきていない。まもなくだ。山に囲まれたこの土地で、雪に包まれながら彼女のことを思った。春など一生来ないのだ、とそう思った過去がよみがえる。忘れるには充分な時間だったのだろうか。彼女は変わらなかった。子供の手がたたみを叩いていた。体を動かそうとしている。私はそうは思わない、と彼女は続ける。後悔しか残らないなんて事はないだろうし、あまりにも幸せなんだから、と言って、子供を見た。陽が傾き始めていた。彼女の部屋から出る。山に囲まれた土地。今、春が来ていた。地に点在する雪が、少しずつ溶ける。地下へ潜る。春は雪を忘れてしまうのだろう。この地から雪を奪って。私はそうは思わない、と彼女の声が残る。次第に闇に包まれていく土地。今まであった温かさが失われていく。バスを待っていた。透明な闇に向かって、通り過ぎる車を眺めた。アスファルトの上、感じていた。

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