混濁のひと/恋月 ぴの
 
のの
キキの横顔は深く憂いに満ちていた

まーちゃんとおいら
根岸の家を飛び出しこの街に流れ着いたとき
まーちゃんは自室においらを泊めてくれて
ひとつしかないベッドでふたり抱き合って寝た
哀しみに震えるおいらの唇に優しく口付けしてくれた

たとえそれが友情を超えた愛の姿だとしても
寝たとか寝ないとかで断ずることは許されるのだろうか

「そろそろ見頃になりそうだよね」

問いかけの真意を測りかねたまま押し黙っていると
キキはベンチから腰を上げ大きく背伸びを繰返す

「奥さんとお子さんが田舎へ帰ってしまって
まーちゃん寂しそうだったから誘惑しただけよ
ほんの気まぐ
[次のページ]
戻る   Point(17)