幼年/渦巻二三五
そこに快楽があるのがわかる
捨ててきた幼年の殻のこともわすれた
激しく身にあふれるものに
耐えられなくなる
おとなになるとは欲情すること
欲情して番うこと
からだが震えるとそれは大きな呼び声となった
いや、呼ばれたのだ
遠くで激しく呼んでいる
からだが乾いていく
呼んでいる
空気が世界を揺らし
からだが宙に浮く
ふたたび生まれ
落ちた
一瞬ののち
飛んだ
――人になった人魚の姫が初めて歩む
なにもかも見えた
のは束の間のこと
あわてて近くの木に取りつく
おそろしかった
しっかりとしがみつき
口吻を突き立てて吸った
やわらかな根から
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