幼年/渦巻二三五
 
からではなく
太い幹から

呼び声に包まれている

呼ばれている
呼ばれている
じりじりとせかされる
からだが乾いて
乾いて
木の汁を吸う

夜と昼とを知った
世界のすべてが欲情していた
こたえはわからなかった
番いたい番いたいと願いながら
身の内に蓄えるものはなにもなかった
太い幹にしがみつき
口吻を突き立てた
なつかしさは
たぶんない

めまぐるしく繰り返す
昼の数と夜の数
ぜんぶわすれた
おそろしいものがやってきて
なんども逃げた
その度になにもかも見えた

呼ばれても呼ばれても
こたえなかった
自分から呼ぶことはできなかった
――そういえば人魚の姫も

とうとう出会わなかったので
番うこともなく
満たされぬ欲情を抱え背中から
落ちた
生きていたこともわすれた

雨の夜
翅が震えた
土を撫でた
――還るところだけは決まっている


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