幼年/渦巻二三五
に空気が落ちてくる
なにもない
なにもない穴の底
つながっている
さわさわと気配だけが流れ込み
そそのかす
――それは波というものであったりする
「上」に行かなくては
「上」に
地上に出るといよいよ苦しいのは
まだだからだ
もっともっと
爪をかけてのぼる
力尽きるまでのぼる
空気にさらされた体が乾く
こびりついた泥が乾く
養われ蓄えたものが
背中から抜け出す
静かに
乾いていく
たよりない空気のなかで
初めて見た
見るということを知った
見えなかった幼年を忘れた
自分がどこにいるか見える
じりじりといたたまれない思いに
また上を目指す
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