「存在の彼方へ」を読んでみる2/もぐもぐ
 
うか。個人が社会に対しあれこれ価値判断を下すとき、或いは社会が個人に対して下す価値判断についてあれこれ思い悩むとき、そこには道徳や倫理の問題が発生している。道徳や倫理は、その時々の世論や慣習によって形作られてきた、その社会において通用力をもった規範である。こうした規範は、単に事実上形成されてきただけのもので、必ずしも合理的な根拠や、十分な体系性を備えてはいない。思想家がそれを一つの体系に纏め上げるとき、そこに道徳や倫理を語るための一つの語彙体系が発生する。宗教は、各種の象徴的表現と交じり合わされた、そうした語彙体系の一つである。その限りで、道徳倫理の問題と宗教の問題とは、多かれ少なかれ重なり合う。
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