ナナカマド/Utakata
 
ところへと埋まってゆく。身の回りにあるものごとはいつだってそんなふうに取り返しのつかないところまで損なわれてしまうことは知っていた。はずだった、のに。乾ききった喉のせいで、あげようとした泣き声は潰された紙屑みたいな音と一緒に死ぬ。檸檬水を口に運んでも、乾きのほんの表面だけを撫でては滑り落ちていく。



(2)
いつのまにか街の風景が空色に溶けかかっていることに気付く。再び空を見上げると、透き通った雲のなかに幽霊たちが何人か紛れ込んでいる。昼の月の浮いたあたりをしばらくのあいだ漂っては、蜻蛉たちのはばたきに飛ばされてはどこかへと消える。最後に雪虫を見たのはいつのことだったか、唐突にそんな
[次のページ]
戻る   Point(2)