ナナカマド/Utakata
 
自分が追い抜いていって、あっという間に腕を伸ばしても届かない街角を曲がって消えてしまった。真赤な蝶に似た色彩。いつまでも網膜の上に踊る。



3.
市松模様のテーブルの上に水滴が溜まっている。氷が甲高くきしむような音を立てては溶けていくのにつれて、逃げ場を失った水も堅い幾何学模様の上を侵食してゆく。帽子を目まで被った男が店の前を通りかかって、中に二人しかいないのを見て取ると気抜けしたように去っていく。しばらくして乾いた砂がなだれ落ちるような音と共に夕立が訪れる。



4.
七竈の果肉が黒ずんでゆくにつれて、掌の上に鈍い痛みがだんだんと強くなっていき、表皮から身体の奥深いとこ
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