兄さんの背中/小川 葉
 
んなガチャガチャで
お金を使い果たしていたので
誰も帰りのバス賃以外
お金を持ってなかった

公衆電話で
親にむかえに来てもらおう
という案が誰かから出されたけれども
誰ひとり市外局番を知らなかった
という
ただそれだけの理由で

かつて兄さんと呼んで慕っていた人が
僕に財布を無言で投げつけて
バスが向かうはずのその方へ
とぼとぼと歩きはじめた
財布には帰りのバス賃の
きっかり百円だけが入っていた

やがてバスから
兄さんのうしろすがたが見えた
うつむきながら歩いてる
僕もうつむいてしまったまま
バスが兄さんを追い越しても
振り向くことが出来なかった
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