兄さんの背中/小川 葉
 
った

子供料金で百円だった
百円の距離はその当時
子供にとって果てしない距離だった
じっさい十キロほどあった
その果てしない距離を兄さんが
とぼとぼとうつむきながら
歩くうしろすがたを
僕は忘れられなかった

兄さんは今
地元のスーパーの店長なのだそうだ
先日帰省したとき兄さんの父に聞いた
兄さんの店は売り上げが悪いので
少したいへんなんだと
笑って話していた

兄さんは
まだ歩いてるのだろうか
あの帰り道を
僕のせいで今も
歩いてるのだろうか

僕はバスを降りて
あの帰り道を歩きはじめる
いつまでも追いつくことの出来ない
兄さんの背中を見ながら
泣いてしまった僕を
兄さんはときどき振り返って
待ってくれている
 
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