脱走/詩集ただよう
 
真っ青なネコが動物園から逃げ出した。
翌日、ゴシップ紙は我先にと騒ぎ出した。
右の人差し指と左の薬指を擦り合わせると、奈良の山奥にいるその青いネコが「みゃあ」と鳴くのが聞こえた。
その声だけがじっとりとした空気の中でカラリと突き抜けた。
通勤ラッシュに破り捨てられた再生紙は雨に溶かされそうだ。
火の点いてないキャンドルを持ったお婆さんがその横を泣きながらスキップしていった。
緑の巨人は相も変わらず引き篭もっている。
歩道橋ではハイビスカスとチューリップもペッティングを始めた。
青いネコが出て行った理由は誰も知らない。
一枚の置き手紙だけを残して何処かへ行った。
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