横断歩道/雨傘
彼とは反対方向の電車に乗って別れた。
最寄り駅で降りると残酷なほど朝だった。
光がいつもより白く見える。
わたしは歩道橋の階段を上りながら、彼のひとことひとことを思い出した。
夜の言葉は体温の記憶と束ねられ、思い出すたびに、身体の芯が痺れた。
街路樹にとまったクマゼミが急に大きな声で鳴きだし、
今日も暑くなることを予感させた。
階段を上りきると首から生ぬるい汗が吹き出た。
Tシャツの縫い目がいやに気になる。
歩道橋の手すりにもたれ、横断歩道を見下ろした。
道をすれ違う人はみな今日の服を着て、今日の顔をしている。
わたしだってよく寝て、朝食を美味しく食
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