横断歩道/雨傘
く食べればあの中の1人になれる。
でも今は私だけ昨日を脱ぎきれていない。
彼はスーツを手早く纏い、わたしはもたもたと昨日の服を着た。
彼は横断歩道を渡るほかの人と同じように、今日の顔をして会社に向うのだ。
わたしは自分の部屋に帰って、ユニットバスでシャワーを浴びて、
午後から夏期講習に出る。
たぶん授業は耳に入らない。
彼の彼女を見かけたら目を合わせられないだろう。
いつもどおりに接する自信はない。
体中の水分が芳るような昂揚感と肌を剥いでしまいたいほどの空虚感。
わたしは手すりの間から足を思い切り振った。
サンダルが宙を舞った。
信号が変わり、車が走り出す。
わたしの蹴ったゴム製のサンダルを車がはじいた。
スパーンという音が交差点に響き、道を渡った何人かが振り返った。
わたしは裸足の足をコンクリートの上に置いた。
内側に早朝の冷たさを残している。
もう片方のサンダルも脱ぎ両足で立った。
息を大きく吸う。
今日も、なんとか、歩けそうな気がした。
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