始まりだけの、物語。/橘柑司
 
ものだったのではないか。
 ボタンを長く押してドアを閉める。
 そう、僕が乗り込んだこのエレベータがいつもとは違うものならば、きっと、この三階のランプから二階のランプに変わって少しすると、
 『二階です』
ほら、止まるんだ。
 僕は、苦笑いをしながらドアを閉めた。不思議と、さっきまで感じていたイライラがなくなっていることに気づいた。
 エレベータが下に動き、体が浮く感覚がした。
 本当なら、もうすぐドアが開いて、いつものようにこのデパートを出て帰路につく。
 でも。
 何故か、そうならないような気がした。
 次にエレベータが開いたら、いつもとは違う所にでるんじゃないだろうか、そ
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