始まりだけの、物語。/橘柑司
、ドアは長押ししなければならなかった。僕は、今度はどこにも寄りかからずにエレベータの中央に立った。
そうしても、エレベータは三階で止まり、開く。乗り込む人もいない。僕は二度目の舌打ちする。
故障、だろうか。さすがに三回も連続でイタズラなどにあうということはないだろう。ドアだってボタンを長く押さないと閉まらない。上るときのエレベータは、いつものように動いていた。降りるときも、いつもとおなじエレベータに乗ったのだけれど、まるでいつもとは違うエレベータに乗ったようだ。そう、いつもとは……
「ああ、そうか」
僕が乗り込んだものは、いつもと同じエレベータだったのだろうか。いつもとは違う別のもの
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