始まりだけの、物語。/橘柑司
 
も。
 この建物も、もう10年くらい前のものだものなと、僕はあまり気にせずドアを閉めるボタンを押した。
 けれども、また、ドアは一度で閉じてくれなかった。
 なんだよ、もう、と軽く舌打ちをする。
 先程と同じように、僕はボタンを押し続けてみた。やっとドアは、閉まる。エレベータはゆっくりと下降を始めた。
 まさかとは思うが、知らない内にボタンを押してしまったということは、考えられなくはない。僕は、側面にある車椅子用のボタンに触れないように手すりに体重をあずけた。
 それでも、『四階です』という機械的な声が聞こえ、ドアは開いた。
 今度も、エレベータを待っている人はいなかった。今度も、ド
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