始まりだけの、物語。/橘柑司
その日は、何も特別な事がない、普通の日だった。
いつものように朝起きて、いつものように電車に乗り込んで、いつものように学校に行って。いつも通り授業を受けた後は、またいつものように電車に乗り、いつものように駅前のデパートの本屋を物色し、いつものようにあがってきたばかりのエレベータに一人で乗り込んだ。
そして、いつものように、僕は一階へのボタンとドアを閉めるボタンを、トトン、ときれいなテンポで押した。
押したはず、だった。
しかし、エレベータのドアは開いたままであった。
あれ、と思わず声に出す。僕は、もう一度閉めるボタンを押してみた。が、閉まらない。三度目、ボタンを少し押し続け
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