河原の記憶/小川 葉
 
斜めに傾いて、とてつもない流れの力に抵抗できず、それでも子供の腕を離さずに、なんとか泳いで岸にたどり着こうとしましたが、上流から聞こえる、ごおおおお、という不気味な音、土砂を巻き込みながら、怒濤のごとくやってきた、まっ茶色の鉄砲水に飲まれたことにも気づかぬうちに、父と子は、帰らぬ人となったのです。
 悪夢を思いだした彼女は、顔を突っ伏しました。泣いているように見えました。そして私は見たのです。川の流れの中から、彼女に近づく、お父さんと子供の魂を。それらは、かげろうの成虫に身を変えていましたが、その二匹のかげろうは、明らかに、お父さんと子供だと、私は、わかりました。ふらふらと、水面ぎりぎりを必死に
[次のページ]
戻る   Point(3)