「水槽」/ソティロ
 
今かんがえているおそろしいこと
それを行えば、現してしまっては
二度と戻れなくなって
越えてしまうだろうことは
充分に、そして正しいかたちで
知っていたと思う
でも選択の余地すらなかった




17.
そして選んだのは黒インクだった
手は震えていた
そのためにキャップをあけたときに
数滴が水槽へ零れて
水面から鮮やかに拡がってやがて消えた
まるで気体のようだった
気体のよう
悦びがはしり、遠近感を失っていった
黒は
次元すら飲み込むちからを具えていた
壜を傾け黒い線を水へ注いだ
黒いけむりがもうもう と立ち込めて
すべてを奪っていった



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