JIKU-MU*HI/影山影司
 
んだ帳簿ですら察知する。
 蟻がそうであるように字喰虫には支配者が居る。子を産むため雌である、という輩も多いが、私は虫達に無性別、無生物的な感覚を憶える。よって女王蟻といった表現は控えさせて戴く。支配者は子を産む他に巣穴の建設や全体の統括を行う。体付きは他の虫より一回り巨大なり。支配者は蓄えられた糞を喰うが、自身は糞を垂れない。時折思い出したように巣穴の果ての小穴に尻を突っ込んでは頭を振る。その様はまるで売女にも似た邪悪さを持つ。
 私はこの謎多き虫の糞を喰った事が有る。胡麻粒のように小さなそれは無味無臭だが、犬歯で一噛みすると火花が散るほど強烈なり。貧血を起こしたように顔が引きつり、耳のそば
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