詩人のシノギ(島崎藤村の巻)/みつべえ
 
近代日本の、文語定型による、翻訳ではない最初の完成された詩的達成であった。「若菜集」は、さまざま傾向の作品をふくんでいて一概には言えぬが、この詩集が広く世に受け入れられたもっとも大きな要因はやはり、かくのように清新な含羞を抒情にのせた歌の調べによってだと思われる。

そはうたのわかきゆゑなり/あぢはひもいろもあさくて/おほかたはかみてすつべき/うたゝねのゆめのそらごと

 この調べで、藤村は恋愛詩をかいた。「まだあげ初めし前髪の」ではじまる代表作「初恋」は曲がつけられ、船木一夫がうたってヒットしたほど、その詩には愛唱性がある。また「おくめ」の一節、「嗚呼口紅をその口に/君にうつさでやむべき
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