此方の景色/因子
 
た。
学校が午前のうちに終わって、下校時刻を過ぎて誰も居ないリノリウムの床の廊下の端、そこの窓の下へ彼女は立っていた。窓の外の白い光と黒髪との対比に私は思わず目を細めた。そこで初めて私は彼女の声を聞いた。彼女は突然背後に立ち竦んでいた私を振り向いて、左手の甲をこちらへ向けて二、三度軽く振ってみせると、ほら、血のいろみたいに綺麗でしょうと言ったのだ。彼女は血液というものを本当に見たことがなかったのだろうと私は思う。血の色みたいに綺麗?血液は実際はとても肉っぽくて汚らしいものだ。笑う彼女を私はほんの少しの失望をもって見つめた。

たった今初めての言葉を交わした相手に、外に出ようと私は提案した。
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