此方の景色/因子
れに気づいてから私は毎日窓の下の石段に脚を揃えて座る彼女を確認するようになった。彼女は毎日そこに居た。そうして観察していると、いつもゆっくりとした歩調でやってくる彼女は教室へ戻るときもやはりゆっくりなのだった。何者の干渉も許さないような足取りを私は見詰めた。やはり友達の居ない私の目は、ただただ格好の悪い自分の「ひとり」とは種類の違うそれを彼女のなかにとらえていた。東京の絵は完成後三日と経たずに美術室から消えた。
その年の初雪の日だった。そのとき彼女は白く柔い指の爪に赤いエナメルを丁寧に塗っていてそれは彼女の手にも、彼女の髪にも目にも腕にも肌にもとても似合っていて美しかった。
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