Emの視界/ムラコシゴウ
吹き上げられて、
Emは向こう岸の上空を漂っている。
ここから先は行き止まりだ。
街の小賢しげな笑いを、Emは片隅に追いやる。
何か話をしよう。とEm。
どうせ自分は眠たげな磁場に包まれたまま、緩やかな死に向かって、坂の上から坂の下へと、
答えの出ない時間
を転がり落ちてゆくのだから。
ネームプレート(¥105)の氏名欄は、空白と等価値だ。
と
Emのたまいき。
Emの ためいき。
Emは二千円札を手に入れた。
ミレニアムのプレミアム。
千年生き続けた源氏物語が、
十年も経たずに死を迎えようとしている。
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