この町/アキラ
 
を自転車で駆け抜けて
小さな古い図書館でたくさん本を抱え込んだ
ひんやりした部屋で追いかけた文字は
きっと今もわたしの中のどこかにある

つくつくぼうしの声が聞こえなくなる頃には
公園の木々のグラデーションに息をのむ
「先に色が変わるほうが南がわ」
そう言って皆で笑ったっけ
でも毎年1日だけ真っ赤に燃えるあの木が
他のどの木よりも好きなことは
実は誰にも言っていない

ほとんど雪の降らないこの町が
真っ白になった時のことはよく憶えている
人も車も少ない早朝の住宅街
ドアを開けた瞬間の音のない世界は
きっとことばでは表せない
知っているのはたぶん隣にいた妹だけ

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