薄明に寄す/みつべえ
 
る。遊歩道をのたうって伸び、銀杏の大樹を補足する。甲州街道にあふれ、新宿駅を占有し、加速度をつけながら東京都全域に拡大する。関東平野をぬけ、フォッサマグマをわたり、日本列島をひたすら北上する・・・蓬莱山のあたりで雨になった。耳切山を過ぎ、空雲山をかすめ、十和田湖へ迂回し、竜飛岬から海へ! 冷たいよう、痛いよう、傷だらけの神経組織に塩水がしみる。海がわたしを取りこもうと、百の指、千の舌をくりだす。痛みの後、少し遅れて愉悦がくる。そのとき、現在地にあるわたしの生身の上の唇がふるえ、演歌をうたいだす。あぶない! いっときもはやく脱出しなければ! 繊毛をはね上げ水を切って上陸すると、そこは一面の雪景色。怖
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