『源氏物語』の概論の一部を学んだ日/右肩良久
 


 「源氏物語」宇治十帖の作者は第一部の作者と同一であるとは確言できない
 「紫式部日記」の作者も紫式部本人であるという確かな証拠はない

 と先生の言う言葉の要点をゲルインクボールペンで書きつけた
 だがもちろん僕の考えていることは別で
 いいかい良久、ここは大学の大教室じゃなくてクノッソス宮殿のいるかの間だ、
 と自分自身に言い聞かせているのだ
 そもそも人類が滅んで人間という存在の様式が失われた場合
 言葉は言葉ではなくなり記録媒体の物理的痕跡に還元されるんだ
 わかるか、たとえ犬や猫や虫や魚が生き残って文字が生物の視界に残ったとしても
 「源」と「氏」が同じ体系
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