卒業/Utakata
 

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しあわせでありなさい
別れるときにひとりの大人がそう言った
その人の言うことは正しいとは思うが
今のところはその言葉を忘れなければならない
旅が終わるときにたぶん
その言葉を思い出すときが来る

とりあえず死ぬな
さよならを言うとき
ひとりの友達が独り言のようにそう言った
その言葉だけは覚えていく
旅立つにあたっての数少ないルールの一つ
生きのびること

***

夜明け前の川へ向かう
既に前の部屋の鍵は瓶の中に詰めて蓋をしてある
河川敷で
水に浮かせた瓶をそっと押し出す
もしかしたらある日
浜辺に寄せられたそれを再び拾うかもしれない

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