卒業/Utakata
 

その日が来ても
あの部屋の風景を覚えていられればいいと思う

***

手に持った新しい鍵と
自分自身だけが後に残る

***

扉を求めて
どこへ行くべきかは分かっている
海を越えたところにある別の大陸
もう一つの言語
その都市で出会うだろう数多くの人々
同じ鍵を持った 今とは全く異なる自分
冷たい鍵穴に滑り込む
滑らかな感触
それを探して

***

電話線はもうないけれど
自分の名前はまだ持っている
さよならを告げるときに
たまに思い出したら互いの名前を呼ぶように約束をした
今までに出会った人々の名前を
一つずつ口ずさんでゆく
呼んでくれれば
そこにいるから

***

昇ったばかりの太陽を目印にして
東の方向へとゆっくりと歩き始める

さしあたっては
まず港のほうに向かってみようと思う



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